毎年リニューアル?!国際共修のデザインと未来
2020年後期 木曜2限
『異文化理解実践』
インタビュイー:渡部留美先生
インタビュアー: 学生サポーター 湊洵菜
『異文化理解実践』とは?
湊洵菜(以下、湊):まず始めに、授業の内容とねらいをお聞かせください。
渡部留美先生(以下、渡部先生):多様な文化的背景をもつ学生がテーマに基づいてディスカッションをしたり、学期後半には協働作業を増やしたりして、留学生の出身国と日本それぞれの社会・文化に対する理解を深められる授業を目指しています。多文化の理解と自文化の発見ですね。他者に対して自分の意見を的確に伝えるための方法を身につける場でもあると思います。受講する学生は1年生が多いこともあり、発表資料の作成能力やグループで発表する能力が養われる機会をつくれたらと考えています。あとは、自分が発表する力だけでなく、他者の発表を聞いて質問したり評価したりする力も高めてもらいたいですね。
湊:文化の相互理解、それに伴う自文化のメタ認知を促進する授業であるように感じられます。伝える力・聞く力の育成も大きなねらいですね。
渡部先生:そうですね。いろんなことを体系的に学んでほしいです。
教室にはどんな仲間たちが?
湊:今年の受講生は11名、そのうち中国からの学生が3名、国内学生が8名ですね。この状況でかなり少ない数字になっていると思いますが、例年の受講人数や受講する留学生の割合はどれほどなのでしょうか。
渡部:昨年の受講生は30人位いました。一応25人を定員と考えていたんですけど、全員受け入れたのでちょっと多かったかなとも思いますが。留学生は4割程度で、出身はいろいろですね。イタリア・オランダ・台湾・韓国など。交換留学生や正規の私費留学生、研究生など様々な学生が参加してくれました。
「気づき」を引き出す
湊:授業のデザインや実際の進行において意識しているポイントはありますか?
渡部先生:日本語で行う授業なので、留学生がしっかりついてこられているかは気をつけて確認します。あと、蓋を開けてみないとどんな留学生が参加するかわからないのが国際共修授業の大変なところですよね。昨年は求める日本語レベル(※1)を中級の4に設定していたこともあって、資料に英語やふりがなをつけるなどしていたんですが、今回はレベルを上級の6に上げたということと、受講する留学生が全員中国人で漢字がわかるということで、そういう補助はあまりしませんでした。ただ、今年はオンラインやハイブリッド形式の授業になり、色々なツールが使えるようになったので、授業の2,3日前には資料をアップし、各自で予習できるようにしました。わからない日本語やもっと深めておきたいところなどを自分で調べておけるので、そこは特に留学生向けに配慮したポイントです。あとは、授業を何回か重ねた後にルールを作りましたよね。
湊:グラウンドルール作り、しましたね。
渡部先生:最初から一方的に押し付けるのではなく、授業を進めていく過程で自分たちで考えて気づく、そして共有するようになるのが肝心なんです。話すときや聞くときの望ましい態度とか、オンライン上でのコミュニケーションで気をつけたい問題とか。今年の授業で扱っている「やさしい日本語」やユニバーサルデザインの内容はそういうところにも繋がっています。
授業内容のマイナーチェンジ
湊:授業の進行上大変なことや困ることはありますか?
渡部先生:うーん大変なこと…この授業は今年で4回目かな。毎年リバイズしてきてて、今年はかなり大きく変えたんです。どうしても共修授業ってテーマが同じようなものになってしまうんですよね。コミュニケーションとか異文化理解とか。私の授業に参加する留学生は学部3年生くらいが多い中、国内学生は1年生が多い傾向にあって、そうなると問題になるのは語学力よりもむしろ経験や基礎学力の差だったりするんですよね。同じように異文化間の非言語コミュニケーション、といっても、海外学生にとっては散々触れてきた内容であることも多いです。だから今年は多文化の「共生」を大きいテーマに据え置くという工夫をしてみました。内容は履修する学生が決まってから再考しています。
湊:留学生の人数や出身国の傾向をみて授業内容を変えているということでしょうか。
渡部先生:そうですね。大体は用意してるけど、今回は留学生が全員中国の学生だったので、日中比較に特化するパートも組み込んでみました。
国際共修は学生の「伸び」がスゴイ!
湊:授業をしていて嬉しいことや感動することなどあればぜひ教えて欲しいです。
渡部先生:嬉しいことですか。学生の伸び率がすごく高いですよね。
湊:わかります。私もサポーターをしていて、特に1年生だと顕著に感じますね。
渡部先生:そうなんですよね。最初はみんな自分から発言しようとしないんだけど、ちょっとファシリテートするとすぐ吸収してどんどん授業にコミットするようになるんですよね。今は基本オンラインだからっていう気軽さもあるかもしれないけど、みんなが積極的に手を挙げたり質問し合ったりするようになって、日々成長していくのを実感しています。
湊:学生の顔つきが変わっていくのを見ると嬉しいですよね。
渡部先生:そうそう。留学生も日本語で授業を受けるって大変だと思うけど、絶対逃げとして英語を使いたがらないんですよ。グループワークを見ていても、国内学生にはいつも日本語を話すようにお願いしたりすごく熱心なんです。留学生向けの日本語の授業もあるけど、それは基本的に留学生だけが参加するものだし、学部の授業も講義型で聞くことが多かったりするから、日本語母語話者と日本語で話す授業って意外と国際共修授業に集中するのかもしれませんね。だから、国際共修授業に参加する留学生の日本語運用能力の伸び率はとても高いように感じています。
湊:国際共修授業は国内学生と留学生のつながりを生み育む貴重な場所ですね。
「将来への扉」としての国際共修
湊:国際交流に関心のある国内学生に期待することや、おすすめすることなどありますか?
渡部先生:英語開講の国際共修授業にチャレンジしてみてほしいです。日本語開講の授業って留学生がすごく熱心に日本語を学んでいる姿勢が見られるものだと思うんですよね。そうなるとどうしても日本語母語話者が優位に立つというか、学びやすい側面があるんですけど、自分が英語で授業を受けてみるとまた違うと思うんです。その大変さを知れば、日本語開講の国際共修授業に対する取り組み方や、日本語で学ぶ留学生への接し方も変わってくるはずです。あと、日本人って案外日本語のこと知らないですよね。留学生と交わる中で日本語を外国語として見るのも面白いんじゃないかと思います。この授業は特に1年生にとっては国際的な学びのスタートになりうると思うので、これをきっかけにして来年は留学生のチューターやってみようとかボランティアやってみようとか、さらには研究室に入った時、社会人になったときにもつながるような学習の機会を提供できれば嬉しいですね。
湊:私の周りでもそういう人は多いなと感じています。国際共修授業への参加をきっかけにして、語学学習とか国際交流への関心を深め、人との輪を広げながら次のステージに進んで行くパターンは良く見ますね。
渡部先生:そうなってくれると幸いです。でも、みんなへのお願いとして、授業の改善点とかやってみたいこととかもっと教えてほしいなあ。みんな優しいから、授業の良いところはたくさん感想に書いてくれるんだけどね(笑)
湊:たしかに。もっと教えてほしいですよね。どういうことを期待してこの授業に参加したのかとか。そういうところでもしかすると私みたいな学生サポーターと話をする機会なんかがあれば、参加する学生も意見や要望を出しやすいのかもしれませんね。学生の考えをすくい上げて教員に繋ぐことでそれがしっかりと授業に反映されるような環境をつくったり、その過程で信頼関係を形成したりというところは、教員と学生をつなぐサポーターとして腕の見せ所ですね。
国際共修の未来
湊:今後の国際共修に向けて考えていることややってみたいことなどあれば、ぜひその展望を教えてください。
渡部先生:今の国際共修授業ってどうしても内容が言語とかコミュニケーションとかに偏っていますよね。留学生と接していると、もっと専門的な内容の国際共修をやってみたいという声も多いです。国際共修授業にもう少し幅を持たせることは必要かなと思うんですよね。私も自分の専門で出来る範囲ではあるけど、今までは言語・非言語のコミュニケーションなど身近なやりとりみたいなものをテーマにしてたのを、今回は初めて多文化共生というものを取り入れて、外国人だけでなく障害をもつ人や高齢者に対する視点、ユニバーサルデザインというところにも広げてみました。外国人との関わり方だけじゃなく、地域社会で様々な背景をもって生活している人や、そこで起こっている問題との関わり方なんかも取り上げていければなあと。例えば貧困の問題なんかも題材にしていければいいのかなと考えています。留学生に要求する日本語レベルを考えながら、より深く入り込んだテーマで国際共修授業を展開させていきたいですね。
湊:世界的な多様性に焦点を当てる授業は多いですが、確かに私たちの身近なところにも多様性ってありますもんね。おっしゃっていただいたようにお年寄りとか障害をもつ方とか。国籍が同じでも一人一人もっている背景は違いますし。そこにフォーカスした授業は少ない印象です。よりアカデミックな国際共修授業として、すでにいくつかあるようですが各学部と連携した展開なんかできたら面白いかもしれないですね。
渡部先生:そうかもしれませんね。
湊:国際共修授業のさらなる発展にワクワクします。本日はお忙しい中貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。
※1 東北大学日本語教育プログラムのレベル設定については、以下のガイドをご参照ください。