開発の背景と特徴
背景
このルーブリックは、留学生と国内学生が意味ある交流を通して学び合う「国際共修」を手法とした教育実践をより効果的に行うために開発されました。言語・文化背景の異なる学習者が学び合いや協働を通して異文化や自文化への理解を深め、その学びをメタ認知することで新しい価値観にたどり着く(末松、2017)学習効果が期待される国際共修ですが、異文化間教育の有効な手法でありながら、その効果をどのように測定し、学びのプロセスを可視化するかという課題が近年浮上していました。
このため、規模、教育理念、特色などが異なる大学の国際共修研究者・実践者が、研究プロジェクト*を立ち上げ、2年間かけてこのルーブリックを開発しました。この過程で、幅広い文献レビュー、国内外での事例研究、ルーブリックの精度を高めるための調査と検証を繰り返し、なるべく多くの学習者と、多様な学習形態を考慮した、汎用性の高い指標づくりに努めました。
本ルーブリックは、今後、社会や利用者のニーズの変化に応じて、継続して改訂作業を行う予定です。
日本の教育現場に適したルーブリック
国際共修は、欧州を起点として広がった「内なる国際化」の一環として位置づけられることが一般的です。留学に行けないあるいは行かない学生に対し、国内にとどまりながらも正課や課外活動を通じて国際的な体験を提供することを主眼に据えています。つまり、国際共修の役割として期待されるのは、学習者の異文化間能力の向上です。異文化間教育は、もともと欧米豪などの多様な文化背景を持つ人々で構成される移民国家で始まり、発展してきました。学習者の成果やその評価に焦点が当たり始めた20世紀末には、異文化間感受性発達モデル(Benett, 1986)を含む様々な指標が発表され、アメリカ大学協会(AAC&U)がDeardroff (2006)を参考にして開発した異文化間能力ルーブリックは、アメリカだけでなく世界各国で普及しています。しかしながら、同ルーブリックは主に西洋の視点を基軸としているという指摘もあり、日本の国際教育現場に即したルーブリックの開発が求められていました。
このルーブリックは、AAC&Uのバリュールーブリックや欧州評議会の「民主的文化への参照枠」(Reference Framework of Competences for Democratic Culture)など、確立された異文化間能力の評価指標を参考にしつつ、「日本」という文化的コンテキストにも適合する異文化間能力を特に重要視しています。例えば、欧米発のルーブリックに比べ、チームで働く上で必要となる能力評価項目が多いのはそのためです。世界共通の異文化間コンピテンシーを維持しつつ、日本の教育現場に寄り添ったルーブリックを開発することに注力しました。
対象および適用範囲
このルーブリックは、正課として行われる授業だけでなく、課外学習プログラムや異文化間交流活動などの多様な学習場面に取り入れることができます。また、高等教育機関の学生のみならず、中等教育課程の生徒から社会人まで、幅広い年齢層の学習者を対象者とします。ただし、開発チームが全員大学の教員であるため、中高生や国際経験の浅い大学生にとっては、理解が難しい表現が含まれている可能性があります。その場合は、授業や活動を担当する教職員が、対象となる学習者に適した表現に変えることを検討し、ルーブリックを活用することをお勧めします。
国際共修ルーブリックの開発に携わった研究チーム
研究代表者・末松 和子(東北大学)
北出 慶子(立命館大学)、平井 達也(立命館アジア太平洋大学)、村田 晶子(法政大学)、米澤 由香子(東北大学)、黒田 千晴(神戸大学)、髙松 美能(東北大学)、秋庭 裕子(東京学芸大学)、渡部 留美(東北大学)、水松 巳奈(東洋大学)、新見 由紀子(東北大学)、小嶋 緑(東北大学)、湊 洵菜(東北大学)
プロジェクト名:科学研究費 基盤研究(B):ニューノーマルを先導する国際共修の新展開と質保証